【算数コラム】算数・数学における具体物教育について
数学は数量や図形などの性質に関して、数や記号、数式を用いつつ、適切な公理と定義、そして厳密な推論から研究を進めていく学問です。
幼い子どもたちにとっては数字でさえ非常に抽象的な存在であり、したがって小学校入学から教科学習として算数がスタートする際は、大きなギャップとして子どもたちの前に立ちはだかることも多いようです。
このような抽象的な概念を理解させるためにしばしば用いられるのが「具体物」です。具体物の例としては、モンテッソーリ教育に用いられるピンクタワーや計算棒のようなモンテッソーリ教具や、キズネール棒、ビーンスティック、折り紙などが挙げられます。
実際、このような具体物を用いた長期的な学習により、算数・数学の成績といった認知的側面のみならず、算数・数学に好奇心を抱くようになったり、学習者の動機づけの向上にも繋がることが様々な研究により示されています(例えば、Sowell(1989))。具体物による学習効果は、ピアジェやブルーナーの発達論とも関連するとお気づきの方もいるかと思います。
このように具体物を用いた学習は、算数・数学への理解を促進させると期待される一方で、使い方を誤ると子どもの学習に対してマイナスに働くことがある点も、教授する立場にある方は留意しなければいけません。
具体物を用いた学習が支障をきたす一つの原因としては、具体物の持つ二重表象性(Deloache(1987))が挙げられます。具体物は、それ自体が特徴を持つと同時に、何か別のものを指示するという二重性を持ちます。例えば、加減算の概念を子どもに教える場合、どんぐり等を用いて教えることがあるかと思います。大人は、どんぐり一つ一つが「数」を具体化していることを理解していますが、子どもたちにとっては必ずしも明白ではないのです。子どもによっては、どんぐり自体にフォーカスしてしまい、加減算という抽象的概念の獲得に失敗してしまう可能性があるのです(Uttal(1997)など)。
その他の原因としては、意図された数学的構造ではなく、別の構造を学習してしまうことが挙げられます。例えば、モンテッソーリ教具には金ビーズというものがあり、これにより数量のイメージを獲得することに加え、10進法の位取りを学びます。実際、1のビーズが10個集まると10の棒ビーズになり、10の棒ビーズが10本集まると100の正方形ビーズになり、100の正方形ビーズが10枚集まると1,000の立方体ビーズになるという、10進法の構造を表す具体物となっています。このように、学習者は10進法の構造を金ビーズから学ぶことが求められるのですが、子どもによっては別の構造を学習してしまう可能性があるのです(例えば、単なる図形の変化として学んでしまうなど)。
このようなマイナス面を克服し、具体物教育による学習効果を最大化するにはどうすればよいでしょうか?
それは、教授する立場にある人(教師や家庭内における親御さんなど)が、具体物に含まれる数学的概念と構造をしっかりと理解した上で、学習者である子どもたちに対して、具体物がどのような数学的概念を表しているのかを明確に意識づけ、援助することが必要となります。また、意図した数学的構造を学習しているかどうかを把握しつつ、場合によっては修正することも必要となります。
そのため、Dr.Childでは数学レッスン内で子どもたちと対話しつつ、抽象度を上げた題材やプリントを扱うことで、具体物教育内にて意図された数学的概念や構造を理解しているかを確認しながら、それらを深化させることを目指しております。